トランスのモデル
SPICE ではトランスを複数のインダクタンスとインダクタンス間の結合係数Kで表します。このトランスを使用し、等価回路とします(左図)。この等価回路 は中林歩氏の文献の中に記載されているものです。同氏のWebsite『Ayumi's Lab』の『電脳時代真空管アンプ設計-第3部』の中で詳細な技術的説明が書かれています。これに忠実に従い出力トランスLUX OY15-5のSPICE Modelを製作しました。
OY15-5 を5k:8Ωで使用する時のモデルはこちら
OY15-5 を4k:8Ωで使用する時のモデルはこちら
モデル化する時に直接的に計測できる定数と間接的に計測値から計算して求める定数があります。私の計測の方法論と出来上がったモデルの評価を中 心に書きます。
インピーダンス測定
直 接観測できないモデル生成のためのデータはほとんどインピーダンスの測定値から導入されます。私はPCオシロの『PICO SCOPE』を用いて、分圧法により測定しました。『PICO SCOPE』の2chの信号入力とファンクションジェネレーター機能を使います。左図は測定回路で、緑太線の部分は共通なのでA-B間の電圧は直接測れません。『PICO SCOPE』の『Maths Channel』機能でA-Bを指定すると、あたかもA-B間にプローブを挿入したように波形が表示されます。
AとBに当てるプローブは必ず1:10にします。入力インピーダンスが10MΩになりプローブの入力インピーダンスによる測定値への影響が低減さ れます。
直列抵抗Rは被測定Zの予想値の10倍程度にします。最初は適当な値(10kΩ程度)で測定して、概略値を把握して、10倍程度のRで再測定すれ ばよいでしょう。これは、位相の影響で計測値に誤差が出るからですが、Rを10倍にすると計算上1%以内に入ります。せっかくシンクロスコープな のですから位相を測定してもいいのですが、波形から正確に位相差を読み取るのは結構むずかしいものです。私はA-B間の電圧とBの電圧をこの 『PICO SCOPE』のデジボル機能でデジタルに読み取っています。
信号源は100kHzまでしか出力出来ません。もう少し高い周波数も出ると助かるのですけど、我慢しています。
低抵抗の測定
トランスの2次巻線直流抵抗は1Ω未満です。一般のテスターでは正確に測定できません。安価な可変定電圧電源の基板キットを使って100mAの 定電流電源を作りました。
低抵抗測定用定電流電源はこち ら
モデルの検証
実 際に使用した測定回路を『Tina-TI』で記述します。2次開放時、2次短絡時およびB-P2短絡時を同時にシミュレーションするために、回路 上、短絡と開放は抵抗で表しました。短絡は1mΩ、開放は100MΩ。このシミュレータ回路ではオペアンプ回路が一つ入っていますが、これはテキ サスインスツルメンツというICの会社が無料配布しているための制約、すなわちダミーの回路です。〈Analysis〉-〈Control Object〉で2次の抵抗とB-P2間の抵抗の値を1mΩ、100MΩの2値に設定します。これで2次及びB-P2間が短絡されたのか、開放されたのかが表されます。 〈Analysis〉-〈AC Analysis〉-〈AC Transfer Characteristic〉で周波数特性を計測表示します。グラフの編集モードでこれをインピーダンスに変換します。すなわち、(1次巻線の電圧/直列抵抗の電圧×直 列抵抗値)の新しいカーブを生成させると、これが目的のインピーダンス曲線になります。
左図はOY15-5の4kΩ:8Ωの2次開放、2次短絡と片方のB-Pを短絡した時のシミュレーション上のインピーダンスカーブです。
左図はモデルトランス2次に8Ωの負荷をつないだ時の1次側インピーダンスを示したものです。巻線比が公称の値とちょっと違っているようです。
左図はモデルトランスの周波数特性です。
左 図はシミュレーション上のインピーダンスカーブ(前述)と実測したインピーダンスカーブを重ねたものです。これがよく合致しているとみるか、不完 全とみるか。高域側のずれが気になったので、モデル側について少しでも合わせる努力をしました。修正したのは、漏洩インピーダンスに由来する結合 係数Kです。冒頭のモデルは修正済みのものです。少なくとも理想トランスモデルで代用するよりは現実的なシミュレーションができると思っていま す。