ベースの基板キット AMP5
スエーデンの通販WebSite『41Hz AUDIO』から購入しました。(現在このSiteは行方不明)購入者にしか回路図を公表していま せんので、内容を説明しておきます。ほぼ、TripathのData Sheetに記載されている回路をベースにして、
1)電源用ダイオードと電解コンデンサー(10000uFX2)が搭載されています。さらにダイード、コンデンサーともに増結用パターンが用意さ れています。私の製作では、両方とも増結しました。
2)ミューティングリレーとドライブ回路が付いていますが、使用していません。
3)電子VR用ICを搭載できるパターンが用意されていますが、搭載していません。
このWeb上では、この部分の詳細回路は示さず、ブロック図的に表現してあります。
概要
左図は機能ブロック図です。TripathのTA2022は入力段のAMPが単電源(5V)のオペアンプで構成されていますので、直結しようとす ると、信号振幅の中心は2.5Vにオフセットされていなければなりません。Data Sheetでは入力にコンデンサーを入れて直流分をカットしています。
このコンデンサーを無くしてDCアンプとするための回路が、左図のHead AmpとDC Servoの部分です。DC Servoは出力にDC成分が出ない様にする回路です。
トロイダルトランスの大きな突入電流に加えて大きな電解コンデンサーへの突入電流でFuseが切れるのを防止するための回路がSoft Start Timerの部分です。
約0.6秒で電流抑制抵抗が短絡されます。
電源のオンオフ時のスピーカーから出るPopNoiseを防止するための回路がMuting Timerの部分です。Tipが検出する異常信号(HMUTE)が出ていなければ、約6秒でスピーカー用リレーがONします。TipからHMUTE信号が出ると、スピー カーリレーはOFFします。電源投入後、このリレーがONするまでの間、電源表示ランプは点滅し、準備中(Ready)を示しています。ちなみ に、HMUTEは過電流、過電圧や出力にDC成分が検出されたときに出力されます。
接続図はこちら
写真はAMPの全景です。中心部の緑基板がキット『AMP 5』,大きな円がトロイダルトランス、左上の平面的な基板が『Soft Start+Muting』、一番右側には縦に『Head Amp+DC Servo』があります。何回も改造を重ねた最後の姿なので、レイアウト自体は格好悪いものになりました。
緑基板の右の銀色がTA2022用のヒートシンクであり合わせのジャンクです。これで、2X60Wが出るのですから、デジタルアンプはすごいです ね。
デジタルアンプには一般に出力回路にLC型のLow pass Filterが付きますが、このキットではトロイダルコアとホルマル線が用意されており、手巻きの指示です。指定通りのターン数を巻けば、ほぼ予定通りのインダクタンス (11uH)が得られます。でも自作の簡易Lメーターで測っておきました。
簡易Lメーターはこちら
緩みと振動の防止のため、セメダイン電気用で固めておきました。
Soft StartとMutingの回路
『回路設計の前提』 この回路図はLTspiceで書いたもので、このままシミュレーションしています。この回路を考える前提としたのは、
1)主トランス以外に補助トランスや補助巻線が不要であること。
2)電源SWを入れ放しで外部電源だけでの入り切り可能なこと。(プリアンプなどの機器のControl outletを使用して、プリアンプとメイン アンプが連動で電源を入り切りすることを想定) これは、タイマー用コンデンサー放電用として電源SWの補助接点を利用しな いということ です。
3)Soft Start と Muting に二つのタイマーがあります。どちらもOn Delay Off Quickであること。これは電源が立ち上がる過程で 電源SWをパチパチとしても、途中からタイマーが始まらない様にするためです。
4)Tipから出力される異常信号(HMUTE)でスピーカーリレーがOFFすること。
5)電源が混触しないこと。アンプにはいろいろな電源ラインがあります。これら同士や信号との混触に注意を払います。
『交流電源有無 検出回路』
交流電源有無を応答性よく検出することは難しいことです。電源回路にリレーを入れたり、電源SWを2回路型にして片方の接点を利用したりします が、後者は上記2)の理由で使えません。
今回は汎用のタイマーIC、555のData Sheetに記載されている、連続パルスの歯抜けの検出回路を使いました。交流電源を半波整流、波高をクリップして電源周波数のパルス列を作り、この歯抜け検出回路に入れ ます。電源有無は電源周波数の1サイクル以内で検出できることになります。必要は感じませんが、両波整流すれば、1/2サイクル以内で検出できま す。
『タイマー回 路』
時間的な精度は必要ないので、汎用のコンパレータICを使ったCRタイマーにしました。On Delay Off Quickを実現するために入力が無い時にCを放電する回路を加えてあります。
『信号絶縁』
混触防止のために、交流信号とHMUTE信号の受信回路はフォトカプラーで絶縁しました。
『シミュレー ション』
この回路自体の電源回路の立ち上がりと同時に、必要とする機能が間違いなく動作しなければなりません。これを間違えるとリレーのチャタリングなど が起きてしまいます。これを入念にシミュレーションで確認しておきました。シミュレーションでチャリングなどを確認したら、電源回路のコンデン サー容量やSoft Start回路のタイマー時間の調整が必要かもしれません。
Head AmpとDC Servoの回路
回路図はこちら
こ の基板『AMP5』は一般的なメインアンプの電圧ゲイン(Max出力の時の入力は500mVから1V)より少なめでしたので、2.5倍のHead Ampを入れる事にしました。このAmpを利用して、『AMP5』への出力を2.5V オフセットさせて、コンデンサーレスを図りました。さらに、スピーカー出力のDC成分を除去するためにDC Servo回路を構築しています。
左図はDC Servo回路の基本部分です。-AのAmpが基板『AMP5』に相当します。バッテリーで書いた電圧がHead AMP出力にオフセットを与える部分です。DC Servoとは交流信号を積分回路に通してDC分を検出し、Head AmpにフィードバックさせてDCオフセットを除去します。積分回路にはこれ自身のオフセットが出な いようにオフセット調整機能を付けてありますが、低オフセットのオペアンプの使用が良いかもしれません。
左の写真は電源部分も含むHead AmpとDCServo回路の基板です。
『電源回路』
Tripath TA2022では各種電源を必要としていますが、特にパワー用の電源のアース(PGND)とアナログ回路用の電源のアース(AGND)が分離されていることに注意が必要で す。DC Servo回路の入力はスピーカー出力ですから、これはPGNDの回路、一方Head AmpはTA2022のアナログ入力に接続されますのでAGNDの回路になります。正負合せて2X2の3端子レギュレータによる電源を作りました。PGNDとAGNDは基 板『AMP5』内で高周波カット用のチョークビーズで接続されています。(Data Sheet通り) DC的には接続されていることになります。積分回路の出力はほぼDC成分なので、この間で信号が受け渡され、混触しません。
『シミュレー ション』
回 路の機能と効果はシミュレーションで確認しました。TA2022のモデルは今のところ見つかりません。この部分は理想アンプとしてシミュレーショ ンをしています。LTSpiceに標準装備のシミュレーション用デバイスとして、電圧依存電圧出力のデバイス『e』があります。これは大変便利な デバイスです。ゲインの設定の仕方や使い方で、単純な理想Ampとして、ゲインを高く設定して理想オペアンプとして、ゲインを1にしてアースから 浮いたノード間電圧の測定用絶縁アンプとして、など使い方いろいろです。この『e』を使ってTA2022の簡易モデルを作り、シミュレーションに 適用しました。
性能測定
デ ジタルアンプの出力はその原理から多くの高調波が含まれます。波形などの測定にはフィルターを挿入します。この測定に対する規格としてAES- 17Filterが存在します。
この規格に合致しているわけではありませんが、左図のButter worth Filterを自作し、測定に適用しました。インダクタンスは市販のリード型の小さいものです。上記はLTSpiceで書いたものですが、インダクターには直流抵抗分も加 味されています。出力VRをMax.にして入力VRでゲインが1/10になるよう調整します。プローブを1:1にしておき、、『PICO SCOPE』上のプローブ設定で1:10を指定するとスケールが実態と合います。
左図はフィルターのカットオフ周波数でFc≒50kHzになっています。
『周波数 特性』
左 図は上記のフィルターを介して、『PICO SCOPE』のファンクションジェネレーター出力を入力で実測したものプロットしたものです。
高域 が盛り上がっているのが気になり、AMP出力のLC LowPassFilterとZobel Filterをシミュレーションしてみたものが、左図です。ほぼこのFilterでAMPの周波数特性が決定されるようです。8Ω負荷ならば、Filterの定数を変更す ればフラットにすることは可能です。Lを1.5倍にしてみましたが、実は音がちょっとね、という感じになり、もとにもどした経緯があります。 1~1.5dB位の盛り上がりは気にしないほうがよさそうです。一般的にいえば、±3dBはフラットと表現してますね。
『歪率特性』
自作の『低歪率発振器』を信号源として、『WaveSpectra』で計測したものが下表です。
測定周波数 | サンプリング周波数 |
FFTサンプル数 |
信号源の歪率 | THD(1W) |
THD(10W) |
THD(20W) |
100Hz |
11025Hz |
16384 |
0.00293% | 0.0077% |
0.028% |
0.021% |
1kHz |
22050Hz |
4096 |
0.0012% | 0.00972% |
0.022% |
0.017% |
10kHz |
96000Hz |
2048 |
0.00285% | 0.058% |
0.25% |
0.35% |