回路構成
機能としてはMC/MMPhono、DAD/LINEの4系統の入力、ボリュームコントロール、RCA/BALANCEの2系統の出力のみです。オープンリール/カセットのレコーディング&モニター回路、ヘッドフォン出力、トーンコントロール、各種フィルターなど市販のプリアンプではありがちな機能で過去40年間使用したことはないものは全て廃しました。
信号系回路図はこちらから。
《ブロック図》
Flat Amp、Equalizer(RIAA) Amp、MC Head Amp それぞれオペアンプ+DCサーボの回路を基本としました。
《Flat Amp》
FET入力オペアンプにディスクリートによるバッファーを設け、DCサーボを付加して、DC Ampになってます。出力はRCAとドライバー素子を使わないシンプルなBALANCEですが、RCA出力は2/3に減衰させています。本来は1/2の減衰であるべきですが、ダイナミックレンジ=ヘッドルームを考えました。一見BALANCEに見えないこのシンプルな回路は受信側と送信側の0V電位が混触してはいけません。プリアンプとメインアンプを並べて設置する時は筐体が触らないようにする必要があり、このアンプの出力コネクタのアースピンは浮かせシールドケーブルのシールドで混触しないようにしてあります。
《Equalizer(RIAA) Amp》
BJT入力オペアンプにローノイズ化、入力のハイインピーダンス化およびハイゲイン化を目的にFET差動アンプを付加してあります。RIAAはNF型で、その特性上、低域において充分なフィードバック量を確保するためにゲインアップが必要と考えました。差動型FETは2SK270で絶滅種です。LUXKIT A501C Limitedを解体する時に摂っておきました。(このLUXKIT A501C Limitedは電流帰還アンプに化けています)
DCサーボを付加していますが、DC Ampとするためではなくハイゲインアンプの動作点の安定用です。
2SK270は2SK170をペア化したもので、2SK170を簡易的にペアにすれば使えるとは思います。(簡易ペア化の方法は下記を参考に)
RIAAネットワークのコンデンサーはポリプロピレンフィルムを使っています。
《MC Head Amp》
BJT入力オペアンプにローノイズ化を目的にBJT差動アンプを付加しました。差動BJTは定評のある(あった)ROHMの2SB737を贅沢に片チャンネルで6個使用しています。DCサーボを付加していますが、DC Ampとするためではなくハイゲインアンプの動作点の安定用です。ゲインは×10、×30、×110、入力インピーダンスは12、50、100Ωに基板上のショートプラグの設定で切り替えることができます。このステージのゲインは×110で、×10、×30はフィードバック抵抗の分圧です。×110で回路の位相補償などの安定性を考えればよいからです。
2SB737は10年ほど前にネット通販で20個購入しておいたもので、hfeとvbeが比較的揃ったものをペア化して使用しました。2SB737は2N4403あるいはZTX851(NPN)を極性反転したものが代替として考えられます。
《FET,Trの簡易ペア化》
TO-92パッケージのFETやTrを簡単にペア化するには、まず特性(Trの場合、hfeとvbe)の揃ったものを抽出します。パッケージのフラットな面を背中合わせに熱伝導性両面テープで貼り合わせ、さらに粘着性銅箔テープで何回か巻いておきます。(右図)
《MUTE回路》
ポップノイズを無くすためにDCサーボが安定し、出力のDC成分が±0.5V以内になってから約7秒で出力リレーがONします。その間はPANELのLEDが点灯します。私の自作アンプ類全てが同じ思想になっています。OFF時にはAC/DCコンバータの直流電圧低下で出力リレーがOFFします。
《Aclassへのこだわり》
現在のオーディオ用オペアンプは非常に優れた歪率特性を持っていますが、エコを目的に無信号電流を小さくなるよう設計されています。これは少なくとも出力段はBclassで動作していることを表しています。メインの信号系オペアンプは強制的にAclass動作させる回路としました。
この方法は定評あるアナログデバイスLT1115のデータシートにも記載されています。
電源のバーチャルグランド回路にも採用しました。手持ちの都合でLM675を使用していますが、同じパッケージのオーディオパワーアンプLM1875はABclassなので、この定電流回路が省けます。
電源回路
電源回路図はこちらから。
《ブロック図》
比較的大型(20V4A)のAC/DCコンバーターを核に構成しました。
〇AC/DCコンバーターはジャンクの日本製ACアダプターをベアにしたものですが、医療用とのことで、中身を確認すると、銅とアルミで2重にシールドされていました。かなり凝った作りのものです。
〇信号回路用は20Vを昇圧型DC/DCコンバーター(中華製)で33Vに昇圧、三端子レギュレーターとシャントレギュレーターを併用した高精度定電圧回路で30Vを作り出します。
〇パワーオペアンプを使ったVirtual Ground回路で中性電位を作り出します。中性電位は基本的には0を基準にした微弱な電流しか流れません。このために、パワーオペアンプは強制的にA級で動作させています。
〇MC Head AmpのFront EndのBJT差動増幅回路にはローノイズ化のために±15Vをさらに高品位に±12Vに降圧させて給電しています。オーディオ用オペアンプをユニティーゲインで使い、その基準入力はシャントレギュレーターによる定電圧電源です。
〇リレー回路用電源は20V用電源から降圧型DC/DCコンバーター(中華製)で12Vにしています。
一つのAC/DCコンバーターから各種電位を非絶縁で生成してますので、電位の取り扱いについて注意しなければなりません。私も失敗しました。AC/DCコンバーターをシャーシーに取り付けた状態で信号系0Vをシャーシーに落としましたが、ぱちっとショートさせてしまいました。AC/DCコンバーターをシャーシーに絶縁して取り付けて解決。
出力の直流電圧監視とリレー回路は回路的に唯一の電位混触の発生する場面です。ツェナーダイオードによるレベルシフトを挿入しました。
製作
《FRONT PANEL》 《BACK PANEL》
FRONT PANELはいたってシンプル。左側のLEDはMUTE状態で点灯。電源ONしてDCサーボが安定し、出力がDC±0.5V以内になってから7秒程度でランプも消え、出力リレーがONします。
ケースは使い廻していますので、BACK PANELはつぎはぎだらけです。
《内部》
信号経路の配線短縮のために、入力セレクターはリレー化しましたが、出力リレーとともにそれらの基板はBACK PANEL内側に取り付けられています。また、同様な理由でボリュームも延長シャフトで信号経路に近い位置に設置しました。
電源部は右側ですが、写真で見える基板類の下側にAC/DCコンバーターがあります。電源部とアンプ部はアルミ板と銅板で仕切りました。
《MC Head Amp》
MC HEAD AMPは微小信号の増幅器なのでオペアンプと前段の差動アンプは直近に配置する必要があります。トランジスタを3パラにするとどうしても平面的な距離が短くなりません。苦肉の策として差動アンプ部分はサブボード化してメイン基板と直角に配置しました。この回路用の高精度電源はこのサブボードに直接インターフェースしました。
性能測定
信号源は周波数特性およびゲイン測定時はPICOSCOPE装備の発振器、歪率特性測定時は自作の低歪発振器です。MM入力では2mV、MC入力では0.2mVという微小信号になります。MMで―40dB、MCで―60dBのアッテネータを介して入力しました。周波数特性の縦軸の読みにそれぞれ40dB、60dBを加算した値が実測値になります。
FLAT AMP(L) FLAT AMP(R)
EQ AMP + FLAT AMP(L) EQ AMP + FLAT AMP(R)
MC HEAD AMP+ EQ AMP + FLAT AMP(L) MC HEAD AMP+ EQ AMP + FLAT AMP(R)
FLAT AMP部のゲインは19.2dB、EQ AMP部のゲインは39dBat1kHz、MC HEAD AMP部のゲインは20dBと読み取れます。ほぼ設計値通りです。また、EQ部のRIAA特性も期待通りです。
歪率測定結果
いつも通り「WAVESPECTRA」+自作低歪発振器での測定です。上図通り、PHONO入力(MM/MC)に測定時は入力にアッテネーターを介しています。アッテネーターは入力の直近に配置してノイズが乗るのを避けるようにします。
増幅段数が増える毎に歪率は低下するはずですが、そうはなっていません。自作低歪発振器の性能限界のためと思われます。
現用中のLUXKIT A901Cの仕様としては、
FLAT AMP部 0.7V出力時で
0.007%@1kHz
EQ AMP(MM)部単体(*)0.7V出力時で
0.0025%@1kHz
EQ AMP(MC)部単体(*)0.7V出力時で
0.007%@1kHz
でした。
単体(*)とはFLAT AMP部を通していないということです。
A901Cと同等かそれ以上のハイエンドの歪率性能を持っていると言えます。
終わりに
試聴してみましたが、一言で言うとくせのない素直な音質です。オペアンプはとりあえず手持ちのものですが、いずれ交換してみるかな、と思っています。現用中の『LUXKIT A901C』はバッテリードライブであるがゆえに、回路は高インピーダンスで設計されています。一方、今回の設計はA級にこだわったり、大きな電源を採用したこともあり、ローインピーダンスでデザインしてみました。音質にどう影響するのでしょうか。