Background

1.各種方式の異なる、真空管やデジタルなどのメインアンプを製作して来ました。これらをブラインドテストで仲間と評価して
  きたところ、ほぼ、 常用するアンプは固定化しつつあります。中高音は真空管(KT88PPや300Bシングル)と”Burmester
  933 Mk2 clone"、低音は”電流帰還アンプの実験機の製作”版アンプです。古いA級のLUXKIT A501Limitedやデジタルア
  ンプはほとんど使われなくなりました。これは、私的な感覚ですが、音が繊細であっても、豊かさで物足りないと感じるよう
  です。

2.LUXKIT A501Limitedは 2X25W Aclass 2X100W ABclassのアンプで、ヒートシンクはヒートパイプ型です。このト
  ランスとヒートパイプ型ヒートシンクを流用し、2X25W Aclass Current feedback Ampを作ることにしました。

HeatPipe3.このヒートパイプ型ヒートシンクは特殊な形状、構造
  なので、トランジスターを取り付けるアタッチメント
  や出力段の基板も流用しなければなりませんでした。
  ”Limited"の基板は標準とは異なりガラスエポシキ
  シ、箔厚70μかつ無酸素銅という凝ったものです。
     トランジスターは変えましたが、回路は定数も含めほ
  とんど同じです。
     ヒートシンクの熱抵抗はその包絡体積からの推定です
  が0.6℃/W程度と思われます。

4.A501の基板構成はドライバー以降の出力段とそれ以
  前のプリ部に分割されています。また、流用する出力
  段の基板はGND電位が左右chが分離されていますの
  で流用の自由度が大きいことも幸いでした。

 






ここでいう電流帰還アンプとは

過去の作品である”電流帰還アンプの実験機の製作”のアンプは、電圧/電流コンバーターの亜流であり、基本的には入力電圧に比例した電流を出力します。負荷(スピーカー)のインピーダンスの変化を補償するように動作するものですが、このページで紹介 するものは全くトポロジーが異なり、あくまで、電圧/電圧コンバーターです。(紛らわしいですね)

インターネット上ではこの電流帰還アンプの解説記事が多くみられますので、技術的あるいは数式的なことはそちらを参照してく ださい。参考資料:”Voltage feedback vs. current feedback amplifiers: Advantages and limitations(Xavier Ramus)” "An Introduction to Current feedback Amplifiers for Audio(Andrew C Russell)””Analog Device Application Note AN-211"

要約して書くと、下記と考えています。

○入力のハイインピーダンス側に帰還するのが電圧帰還、入力段バッファーのローインピーダンス側に帰還するのが電流帰還。
○電圧帰還では帯域と利得はトレードオフの関係にあり、高帯域かつ高利得にはならないが、電流帰還では相関関係は無く、高帯域かつ高利得が可能。
○スルーレートが大きい。オーディオでは音の立ち上がりがよくなる。ダンピングファクターがよくなる。
●帰還抵抗に制約がある。
●安定性が悪く発振しやすい。特に容量性負荷。パッシブネットワークを持つスピーカーに要注意。
●入力段そのものには帰還がかからない。歪率が低下する。(Alexander typeはそうでもないらしいが)

CFA

左図は電流帰還アンプの基本的な構造を示しています。A2はドライバー以降の出力段で、一般的なアンプと同じです。A1のアンプの出力に帰還がかかっており、次段への信号は電源側から取り出します。これが電流帰還アンプの特長です。
A1アンプはディスクリート回路でも、オペアンプを使った回路もあります。オペアンプ使用の回路はAlexander氏により考案されたので、Alexander式と呼ばれています。今回製作したアンプはディスクリート型です。
ディスクリート型A1アンプの部分もいろいろ派生形があります。






回路デザインするうえで

完全なオリジナルデザインにするほどの力量はありませんので、参考回路を探しました。メーカー製ではAccupahseのA-60やE-350、あるいはMarantzの回路が参考になります。ネットサーフィンで見つけたのが、Audio Designや基板を作っている会社であるHifisonixというサイトです。このサイトでの技術資料は極めて詳細に書かれており、自作の参考としては最適でした。基板も売ってます。NX Ver.2を参考に作りました。というよりデッドコピーに近いかもしれません。

プリ部はほとんど同じで、DCサーボを加えてDCアンプにしました。Bias部はAutoBiasになってましたが、いまいちピンとこない回路なので、一般的なボルテージマルチプライヤー回路にしましたが、製作完了後、しまったという感じです。

オリジナル回路の素子は海外製です。サイトの技術資料ではこれらの素子の選択、選別について細かに書かれており、こだわりを感じました。入手容易な国内製の素子を選択するため、シミュレーションや調査をしました。


回路について

アンプ部回路図(PDF)はこちら
全体回路図(PDF)はこちら

1.素子の選択

DeviceSelection出力トランジスターは寸法とコスト面であまり選択肢はありません。ヒートシンクが特殊なために、TO-3PNパッケージが必要。価格の面で2SC5200N/2SA1943Nで決まり。
ドライバーはシミュレーションでも分かりますが、特にAclassアンプの場合、その直線性が歪率に大きく影響します。直線性で定評のあるサンケンの2SC4883A/2SA1295Aを使いたかったのですが、入手難で挫折。物もSpice Modelも入手でき、PC=20W程度のコンプリメンタリーペアをシミュレーションで探しました。東芝の2SC4793/2SA1837に決定。最近のTTC011B/TTA006Bは全くNG。
プリ部の終段、これもその直線性が歪率に大きく影響します。PC=5W程度のもので基板用ヒートシンクで温度を安定させることが必要です。これもシミュレーションで探しましたが、選択肢としてTTC004B/TTA004Bなど最近のものは多くありますが、NG。SANYOの2SC3503/2SA1381で決まり。ヒートシンクは1個のトランジスター当たり、10.3℃/Wの物を使い、シミュレーションでは8.2degの温度上昇しかありません。
プリ部の入力段、これらは国内はもとより海外でも多く使用されて定評のある2SC2240/2SA970。ただし、使用数の倍ほど購入しhFEで選別して使用しました。NPN、PNPそれぞれをhFE順に並べてみて、最大/最小の幅の少ない6個(使用数)を抽出、上位3個と下位3個をL、Rに振り分けます。NPNのhFE上位3個とPNPのhFE上位3個を同じチャンネルに使用しました。この選別については前述Hifisonixの技術資料を参考にしました。
右の写真はその様子。


2.基板の製作

OutputStageOutput Stage 前述のようにA501Limitedの基板を使いました。トランジスターを全て交換、電源強化のため電解コンデンサー(1000uF)X4を追加、Bias回路を一般的なトランジスターVfbの温度特性を利用したボルテージマルチプライヤー回路にへの変更をしました。この温度補償用トランジスターは終段トランジスターの背中にビスで共締めしてあります。

Pre Stage  GNDラインは左右ch独立のパターンとしました。後でこれが大変役立つことになりました。
PreStage





PowerSupplyPower Supply  Aclass専用とし、トランスの2次側(センタータップ20+20Vが2回路)はパラにしました。整流回路とRipple Filter回路で構成されます。Aclassなのでちょっとおごった作りになっています。右のヒートシンクはダイオード用、左はRipple Filterのトランジスター用でともにジャンク品。電解コンデンサーは4X15,000uF 35Vですが、大きさ的にこれ以上増やすことはできませんでした。

AuxBoardAux.Board 電源の突入電流防止ソフトスタート回路とスピーカー保護リレー回路の基板です。











製作

外観と内部
outerviewケースはA501そのものでいたってシンプル。パネル部も流用、Class切り替えSWとStereo-BTL切り替えSWは使用していません。
大きな電解コンデンサーのあった場所に、整流回路+リップルフィルターのPowerSupply基板、補助回路とプリ部が1枚の基板でしたが、Pre-Stage基板とAux.基板は独立した2枚に分け新たに作りました。PowerSupply基板とOutputStage基板の配線はもともと使用していた無酸素銅の太いワイヤーです。可撓性が悪く、やや見苦しい取り廻しになっています。


panelwhole


トラブル

大きな発振?がでる
無信号、無負荷でAclass動作のためバイアス電流を増やして行く時、ある電流以上になると出力に振動波形が現れました。両chともに同じ現象が出ました。
➡出力段電源を片ch外すと、他chは正常になる。
➡周波数は6MHz程度。
➡電源回路の廻り込みか? どんなルートか? ループにはなっていないつもりなのだが。
もぐらたたきだが下記を試行しました。
noise
1.P、Nの電圧に0.6V位の差があり、Ripple Filterをチェック
   したところ、P側ダーリントンのドライバーTr.の破損を発見
   した。導通状態だったので、ダーリントンにはならず0.6V
  位の差で電圧は出ていた。 →トランジスター交換し、
  P、Nの電圧差は解消 →現象としては関係しなかった。
2.出力リレー回路からの廻り込み? →保護回路の共通アース
    を外してみる →効果なし
3.Pre部の電源入力は両ch共通 →分離のためにダイオードを
    挿入 →効果なし
4.Zenar Diodeの保持電流不足 →Zenar Diodeの電流UP
   →効果なし
5.Pre部と電源部と出力部のアースライン変更 
    →やっとたどり着いた‼

PreStage_B




あきらかに、電流依存であり、当初は電圧降下に着目していたのですが、結果としては基本的なアースの取り方の問題でした。もっと早く気付くべきだった反省しきりです。
幸いなことに、Pre部は回路的にほぼ完全に、L、R独立のパターンで製作しておいたことが功を奏しました。この設計をしていたことは予測していたはずなのですが。右の写真はPre-Stage基板ですが、水平方向の2本のパターンがアースラインです。アースラインは4㎜幅の3M製の銅箔テープ
です。

バイアスの温度補償が過大
Aclassなので大きなアイドル電流を設定することになりますが、温度補償が過大すぎて、温度上昇していくとアイドル電流がほぼ半減してしまいました。すなわち、温度上昇とともにAclassでの最大出力が減ってきます。実用上はAclassでの最大出力が減り、ABclassに変わるだけで、気づかないかもしれません。またトランジスターの保護的には安全サイドということもあり、このまま使用しています。
うかつなミスでした。温度補償の対象はドライバー+アウトプットのトランジスターと思い込んでいました。アウトプットトランジスターもドライバートランジスターも同じヒートシンクに搭載されていればこれでOKですが、今回はヒートパイプという特殊なヒートシンクであり、ドライバートランジスターは独立のヒートシンクに搭載されています。よって、温度補償の対象はアウトプットトランジスターのみでよいことになります。当然、2倍ほど過補償になってしまいます。これを整理したものが下記です。
bias

BiasPlan改善する方法として、単純なボルテージマルチプライヤー回路ではだめなので、これをアレンジした回路を模索する方法か、定電流回路にする方法があります。改造案として左記を考えました。実現はしていませんが、少なくともシミュレーションでは満足できそうな回路です。










性能測定

歪率測定
THDmeasure歪率測定では、自作の低歪率発振器の性能でほぼ測定限界かと思います。

周波数特性
FRA4PICOSCOPEで測定したものです。ゲインは両Chともに27~28dB程度でした。左がRch、右がLchです。
FRA_RFRA_L

矩形波応答 
10kHzでの矩形波応答です。上の波形が入力、下の波形が出力。左がRch、右がLchです。
Square_RSquare_L

容量性負荷 
0.1uFのフィルムコンデンサーを負荷とした時の10kHzでの出力波形です。左がRch、右がLchです。CFAアンプは容量性負荷に弱いということで、波形を観測しましたが、特に問題は無いようです。20Wに近い大出力時です。
C_Load_RC_Load_L

いままでと違うトポロジーを持つ電流帰還アンプ(CFAアンプ)なので慎重に性能を測定しましたが、結果としては少なくとも電気性能的には極めて満足できるアンプが完成しました。後は試聴結果次第です。

試聴結果

電気性能を満足したのでは意味がありません。いつもの仲間にブラインドで評価してもらいました。やや硬質感が感じられるが、音の輪郭は格段によくなりフルオーケストラ向きかもしれない。硬質感についてはエージングで軟化しつつある気がします。前作の”Burmester 933 MK2 Clone"に比べ高音域がはっきりしています。
現時点でのオンラインできるアンプは300Bシングル、KT88PP、”Burmester"およびこのCFAアンプですが、それぞれハイエンドに近いと自負しています。固有の特長があり、音楽ジャンル毎に選択して”音”を楽しんでいます。ただし300Bシングルは8W程度の出力なので、40㎡程度のリスニング環境ではやや非力感があります。家庭内のホームオーディオ機器として最適かな、と思います。


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