Background
1.各種方式の異なる、真空管やデジタルなどのメインアンプを製作して来ました。これらをブラインドテストで仲間と評価してきたところ、ほぼ、常用するアンプは固定化しつつあります。中高音は真空管(KT88PPや300Bシングル)、低音は”電流帰還アンプの実験機の製作”版アンプです。古いA級 ディスクリートアンプやデジタルアンプはほとんど使われなくなりました。これは、私的な感覚ですが、音が繊細であっても、豊かさで物足りないと感じるようです。
2.そんな時、たまには火を入れておこうとデジタルアンプをオンしたところ、1台(100W級)が発煙して昇天しました。TripathのドライバーIC(TA3020)のPINあたりから焦げが発生しており、周辺のCRや出力段FETも破損しており、完全に壊滅状態でした。このICは 各種保護回路が満載されてますが、この保護が全く効かなかったので、出発点はこのICそのものでしょう。このアンプの電源回路およびケースを残し、後は処分しました。電源、ケース、ヒートシンクはアンプを作るとき、コストの一番かかるところですから。
3.人生最後と思っていた”300Bシングル”がコロナ禍のために予想外に進展し、システムのメインになっています。まだまだコロナ禍が収束せず、ひまを持て余して、焼損したデジタルアンプの残骸と、聴くことがほとんど無い”TA2022アンプ”を解体して新たなアンプを作ったのが、こ のページで紹介するものです。
Made in Chineの基板キット
この基板キットの商品名は"DIY kit Burmester 933 MK2 Current Feedback Amplifier”でした。
Specifications:
Power supply range: DC+-30V to +-60V
PCB size: 142MMX72MM
Output power: 130WX2 /8Ω; 180WX2 /4Ω
Frequency response: 10HZ-40KHZ
Distortion: 0.001% 1KHZ
Signal to noise ratio: 105dB
いまだに、この商品名で販売されていますが、実はこれが大間違いで、この回路は電流帰還アンプではありません。一般的な電圧帰還のAB級アンプです。
マニュアルは無く、基板のシルク印刷の指示で作ることになります。販売サイトには簡単な説明と回路図がありました。シルク印刷、現物のパーツ類が微妙に違っていました。ある程度の回路的知識がないと、ちょっと製作は難しいかもしれません。
《主な相違点》
○出力素子は別途購入しなければならないが、シルク印刷とサイト記事や回路図と異なる。耐圧の問題だけだが。
○回路図にはない、位相補正用コンデンサーがシルク印刷と現物にある。(22pF)
○ドライバーに2SB649/2SD669が4Pair使うが、何と、中古が入っており、ピンのカットや半田痕があった。クレームを付
け、代品を送ってもらった。3週間ほどかかった。代品はMade In Chinaのセカンドソース品だったので、Amazonで5Pairを
1,000円で購入しました。この位の覚悟は必要かも。
○セメント抵抗は図面では0.47Ω、現物は0.25Ω。当初より大きすぎると思っていたので、問題なし。ただしサイトの説明で唯一
の調整個所で ある無信号電流の調整場面で、この抵抗の両端電圧が20-80mVに設定せよ、と書いてある。0.47Ω、0.25Ω
どちらの値なのか分からない。無信号電流は0.25Ωの抵抗の両端で32mVすなわち128mAに設定しました。
○図面上でLD1、LD2の現物はJ510というTO92のパッケージのVishayの
定電流ダイオード(3.6mA)が入っていた。図面は極性が逆、シルク印刷
のカソードマークも逆、TO92パッケージの半円形は正しい。
○サイトの説明では電源電圧は30~60Vと書いてあるのだが、ドライバー
段回路用に48Vの定電圧回路がある。よって少なくとも50V強の電圧が
必要のはず。
○各種抵抗値がシルク印刷と回路図と異なるものが多い。似ている値が多い
のだが、1桁違うのもあった。(120Ω→1.2kΩ)できるだけ使うが、30
本ほど新たに調達した。
○BC640/2SD669、BC639/2SB649で構成される部分はインバーテッ
ドダーリントンに見える。2段目のBE間の抵抗は図面もシルク印刷も
120Ω。部品は1.2kΩ。シミュレーションしてみたところ、120Ωでは
ダーリントンの機能はせずに、ほとんど1段目に負荷がかかる。他に意図
があるのか分からないが、1.2kΩで製作した。
○出力のZobel Filterの抵抗(4.7Ω0.5W)がテスト中に焼損。あきらかに
小さすぎるので、10Ω2Wに交換した。
回路について
アンプ基板回路図はこちらから(PDF)
全体回路図はこちらから(PDF)
アンプ部
アンプ部は、キットをほぼそのまま作っています。どの程度のClone性なのか分からないまま、アレンジしたくなかったためです。 オリジナルのBurmester 933 MK2の写真は見つかりますが、回路図を探し出せませんでした。
ただし、Simulationはしておきました。目的は前述の微妙な抵抗値の違いが特性にどう表れるかを確認するためです。製作した回路図は LTSpiceの画面そのもので、Modelは全てネット上から入手できます。
電源回路
デジタルアンプで使っていたトロイダルトランス2個を使用しました。(225VA 2X115/2X18V と 225VA 2X115/25V)
電圧が不足するので2次側を直列にしてあります。100V入力で使うので、等価的にはトータルで 336VA 100/2X37Vになります。電解コンデンサーは焼損したデジタルアンプの残骸で27,000uF63V PANASONIC製。電圧を少しでも稼ぐためダイオードはSBDにしました。ブリッジダイオードを2個使い正負で独立にしましたが、これはプリントパターン上でGND電位を広くとるためです。(トランスの中点からGNDを取り出さなくてもよいということ)これでも電圧不足は解消しないので、ドライバー段用定電圧電源の Zenerを2X24Vから24V+22Vに変更しました。
ソフトスタートとスピーカーリレー
過去の経験からソフトスタート回路の電源は主電源トランスから取らず、AC-DCコンバーターを用意し、かつ限流素子は抵抗ではなくNTCサーミスターにしました。過去の経験とはリレーが動作せずに抵抗を焼損させたことがあるからです。主電源の2次の直流部でショートさせてしまうと、直流電圧が低下します。当然、ソフトスタートリレーもOFFし、限流抵抗に流れ続けてしまい焼損することになります。
スピーカーリレーは一般的なアンプ保護用ICのμPC1237をつかい、L、R独立回路にしました。これは構造上、シンメトリーな配置を意識したためです。
製作
全体
上側がBack panel、下側がFront panelです。タカチのアルミサッシケースですが、通常の使い方ではなくパネル側とサイド側を逆にしてあります。左右シンメトリーな配置を心掛けました。サイドパネルにヒートシンクを付け、そのヒートシンクにはアンプボードがL金具で取り付けられています。このアンプと一体化されたサイドパネル自体はネジ2本を外せば上に引き抜くことができます。
アセンブリー組立
左写真;ヒートシンクとアンプ基板を一体化させたもので、1ch分です。このヒートシンクは側板にねじ止めしてあります
右写真;左から電源ブロック、ソフトスタート基板、ミューティングリレー基板(2枚)です。これらはユニバーサル基板(タカチ)で作りました。
性能測定
周波数特性と歪率特性を計測しておきました。
《周波数特性》8Ω抵抗負荷、1W出力時。 測定はFRA4PicoScope
左がLch、右がRch。Lchの方がややゲインは高いが、特性としてはほぼSpec.通り。
《歪率特性》8Ω抵抗負荷、10W出力時。 測定は自作低歪発振器+『WAVE SPECTRA』
左はLchの1kHz時でTHD=0.00566%、右はRchの1KHz時でTHD=0.00552%を示しています。Spec.の0.001%には届いていませんが、自作発振器による歪率特性測定システムの測定限界かもしれません。ちなみに、Lch100Hzでは0.00419%、Lch10kHzでは0.00676%、Rch100Hzでは0.00429%、Rch10KHzでは0.00614%でした。
試聴結果
実は、この基板キットはタイトルの"DIY kit Burmester 933 MK2 Current Feedback Amplifier”で思わず買ってしまったものです。本当はCurrent Feedback Amplifierを作りたかったのです。本文にも書いたように、これは電流帰還アンプではありません。よってあまり期待はしていなかったのですが、デビューしていきなりホームランを打ってくれ、試聴開始以来、すっかりレギュラーメンバーとして定着しました。
中高音に、はりがあり押し出しの良い豊かな音が印象的で、音質的にはKT88PPに似ているような気がします。
アンプの作り手としては、サンケン製の大型トランジスター(2SC3264/2SA1295)は大変安心感を与えてくれます。