シンプルな外観デザイン
・ 憧れの300Bで すから、外観にも気を配りました。センターから左は電源部、右はアンプ部でアンプ部はL、Rchはシンメトリーに配置しています。
・電源スイッチは背面側。プリアンプの連動コンセントを使用することが多く通常は操作しませんので。
・左側のLEDは”POWER"、右側は”MUTE"のランプ。"MUTE"は準備中の意味で300BのB電源ONで消えます。
・300Bのソケットは中国製の放熱孔の付いたサブプレートに取り付け、5mmほどシャーシー上面から沈ませています。
・左奥のトランスは補助電源トランスで、出力トランスと同じケースに入っています。
・シャーシー内部は割とぎっしり詰まっています。アンプ部はLラグを使った昔ながらの配線スタイルです。
・ロードスイッチ、300Bフィラメント電源、オートバイアス回路はそれぞれモジュール化しました。
コンセプトデザイン
1)設計の前提
・手持ちの電源トランス、チョークやリーズナブルな価格で購入した出力トランスと補助トランスのSpec.から主に電圧の制約があります。これが設計の前提になってしまいます。電圧はレギュレーションを考えてやや低めの設定にしました。
各部電源電圧と許容電流は、
B1=420V(370Vも可)
B1の電流=170mA(連続電流の最大-チョークの電流max.)
B2=50V
B2の電流max.は10mA
B3=410V
C1=-200V
出力トランスはソフトンRW-20で、
2.7KΩ:6Ω(=3.6KΩ:8Ω)
1次DC抵抗=94Ω(Spec.より算出)
2)300Bは固定バイアス
・限りのある電源電圧を有効に活用。おおきなカソード抵抗は置場所に困るし好きになれません。
・固定バイアスにする時にはグリッド抵抗を小さくしなければなりません。(50KΩ以下) ということはドライバーの負荷が小さくなり、大きな振幅が必要なドライバーの負担が大きくなります。
・バイアス電流調整回路(オートバイアス回路)を採用。既成アンプの多くに採用されています。当初はありませんでしたが、なかなか安定せず、付け加えました。必然性が分かりました。
3)直結カソードフォロワー
・入力インピーダンスが増やせてドライバーの負担を軽減する。
・高インピーダンス化すると、カップリングコンデンサを小さくすることができる。このコンデンサで音が変わるとよく言われていますので。容量が小さいと安価に変えてみることができます。
・直結にしようとすると、マイナス電源が必要になります。
4)ドライバーステージ
・大きな出力振幅(およそ200VP-P)が必要。初段と直結しようとした時、大きな電源電圧が必要です。
・動作点の選択により直線性はかなり変わります。フルに電圧を使いますが、少しでも直線性の良い動作点を選ぶために、初段の電源電圧を可変にしました。
・ドライバーと初段は直結として、低域時定数は一つのみにしました。負帰還回路の設計が簡単です。
5)初段は電流帰還
・アンプ全体としての負帰還は6dB程度の軽るめを目指しました。軽めの負帰還で、初段のゲインは小さくてよくなり、波形改善をかねて大きめの電流帰還を掛けます。
5)300Bフィラメント回路
・300Bのフィラメントは常温でおよそ1Ω程度でした。定格は4Ω程度なので電源投入時には4倍の電流が流れ寿命に影響します。直流の定電圧定電流モジュールを使ってラッシュが1.5倍程度になるようにしました。安価な中国製のモジュールです。
・B電源投入のインターロックとして、DC4.5V以上の信号を両chともに出力します。
・このモジュールの破損を考えて、5.5V以上(セルフホールド付き→電源OFFでリセット)を用意しましたが、使っていません。中国製モジュールの回路がよく分からず、これをOFFする回路が簡単ではなかったためです。
・フィラメント用電源はAC6.3Vしかありませんでしたので、大きな電位差を必要とする一般的なLM317などの3端子レギュレーターは使えません。スイッチングレギュレーターを使い、発熱の低減も図りました。ヒートシンクも不要です。
5)ロードスイッチ
・高価な300Bを使うときに、整流管を使うことが多く見受けられます。これはフィラメントが立ち上がる前にB電圧がかかるのを避けたいからだと思います。B電圧が遅れて立ち上がるようタイマー付きロードスイッチを設けます。
・300Bフィラメントの電圧が両chともに4.5V以上になり、かつC電源が確立して、タイマーが起動、1分後に300B用のB電源がソフトスタート(約0.5秒)します。
詳細設計(アンプ回路)
真空管回路の設計は各プレート特性図をベースに行いました。このプレート特性は”AYUMI'S LAB"からゲットしたSPICE MODELから生成されたものであり、いわゆるデータシートの特性曲線からのものではありません。どこかのメーカー製を参照してMODELを作成されたと思いますが、それ は分かりません。所有している真空管との一致性は確認していません。
シミュレーターはCAD的に使い、いわゆるシミュレーションはあまりしないことにしました。シミュレーションを使う反省としてカットアンドトライ的になり、アカデミックにならないような気がするからです。
1)出力段
左図はプレート特性図上にACとDCロードラインを引いたものです。赤がDC、緑がAC。条件は、
電源電圧=420V、AC負荷=3.6kΩ、DC負荷=109Ω、バイアス電流=70mA
としました。電源供給能力170mAから前段への供給を20mAと仮定、(170-20)/2=75mAが許容の最大となります。70mA以下で は電流0側でクリップしてしまい、出力は低くなります。点AはEg=-89VとDCロードラインの交点であり、 その交点を通る傾き3.6kΩのラインがACロードラインになります。点Aから最大出力を求めます。
最大出力=(153.9mA)**2*3.6kΩ/8
=10.65Wが計算上の値になりました。
このステージの電圧ゲインはA点とB点の座標から計算します。
電圧ゲイン=(412-110)/-89=-3.39倍、ドライブに必要な電圧は0-pで89Vになりま す。出力をトランス2次側で表すと、トランスのインピーダンス3.6kΩ:8Ωから巻線比は√(3600/8)=21.21ですから、電圧ゲイン は⁻3.39/21.21=-0.1598=
-15.93dBと計算できます。
2)カソードフォロワー段
カソードフォロワーのロードラインはカソード抵抗を負荷として表します。条件は、
電源電圧=250V、12BH7は2素子の並列、カソード抵抗=39kΩとしました。
2素子並列は物理的なレイアウトからくるものであり、電気的な必然性はありません。負荷39kΩは電流供給能力の制約からですが、余裕さえあれば もっと抵抗値を下げたほうがよいと思います。
点Aで電圧Maxが得られます。
Emax=5.77mA*39kΩ=225V。点Bでは電圧Minが得られます。Emin=1.16mA*39kΩ=45V。
すなわちロードライン上のVpが逆になるだけです。よってAとBのVpの差がP-Pで180VになるようにAとBを決めればよいことになります。 ではその時に入力電圧はどうすればよいのでしょうか。点Aでのカソード電位は5.77mA*39kΩ=225Vなので 225-1.65=223.35Vのグリッド電位になるはずです。点Bではカソード電位は45Vなので45-15.7=29.3Vのグリッド 電位になります。よって電圧ゲインは(225-45)/(223.35-29.3)=0.928=-0.68dBに なります。300Bのドライブに必要な電圧は178VP-Pですが、ドライバーに要求する電圧はさらに大きくなります。 178/0.928=191.8Vp-pの 振れ幅がドライバーに要求されることになりました。
ここまでで、出力段+カソードフォロワー段のゲインは決まってしまいます。6dBの負帰還を掛けた時のアンプ全体のゲインを設定しておきます。 オーディオセレクターで出力の違うアンプを切り替えるために現用中のKT88PPのゲイン(28dB)と合わせます。 28+15.93+0.68+6=50.61dBがこれから設計するドライバー段+初段のゲイン目標です。 (厳密ではありませんが)
3)ドライバー段
ドライバーと初段は直結にするとカソード電位は初段のプレート電位よりバイアス電圧分だけ高くすることになります。ということは初段の電源電圧をできるだけ低くし、ドライバー段に使える電圧を大きくしなければなりません。
この段の電源電圧は410V、カソード電圧を100Vにして設計してみます。プレート抵抗はとりあえず68kΩ。AC負荷は 68kΩとカソードフォロワー段の入力抵抗470kΩのパラ。
AC、DCロードラインを書き加えたドライバー段のプレート特性が左図です。
点Bを動作点とし出力が点Bから±+100Vになる点がCです。
動作点Bでは2.35mA流れるのでカソード電圧を100Vにするためのカソード抵抗は100V/2.35mA=42.6kΩになります。
このステージのゲインは(259.5-168.7)/(13.5-7)=13.96=22.9dBです。
4)入力段
この段にはHi-μの6AQ8を使いますが、双3極管を両chで使うときに素子間にシー ルドがあったほうがよいと思ったためです。6AQ8はゲインの高いので、電流帰還を掛けて歪率の向上を図ります。LUXの回路で,一般に使われて る 定数で設計してみます。RL=100kΩ、RK=820Ω。もしゲインが足りない等があればリトライすることにします。左図は電流帰還の時のロードラインです。電流帰還を 掛けると、かなり様相が変わり、カーブは寝てゲインが下がり、明らかに直線性がよくなっています。左図のいずれも等 グリッド線は±で書かれていますので注意してください。これは電流帰還抵抗はグリッドバイアス抵抗を兼ねているからです。プレート電圧=100-7=93VとEG=0Vの 交点を通るようにRL=100kΩのロードラインを引きます。そうするとこの段に与えるべき電圧が分かります。C点の269.4Vです。この段のゲインはA点とB点の座標から求めてみます。 (93-57.8)/1=35.2=30.9dBとなりました。やや高めとなりましたが、これで良しとしま す。
ドライバー段のカソード抵抗は計算上で42.6kΩですが、実際は近い数値の41kΩにしますので、動作点は変化します。広い出力幅を要求するドライバーにとって、動作点の設定は肝になります。動作点=バイアス電圧を変化させるためには、初段のプレート 電圧を変化 させなければなりませんので初段の供給電圧を可変にしておきます。
左図1)は直列抵抗による一般的な方法ですが、負荷電位はドライバー段のグリッド電位でもあります。電源投入時にグリッドに高電圧がかかりドライバーに過電流の可能性があります。通常は2)のようにブリーダ抵抗を入れて、これを抑えます。ただしこの方法は大きな損失が発生することになります。これを改良したのが3)の回路です。1)よりR1、R2、VR分だけ損失が増えますが、これらは高抵抗でOKなので、損失の増加はわずかです。3)を採用しました。入力電圧と出力電圧が比例するように、あえて定電圧回路にはせず、R2とR3がさらに高抵抗化できるようトランジスター はダーリントン接続にして、高hFeにしました。
5)負帰還定数
各ステージの設計からオープンループ時の総ゲインは A=-15.93-0.68+22.9+30.9=37.19dB=72.36倍になります。6dBの負帰還を考えると、帰還量はF=1+Aβ=6dB=2 よってβ=0.01382になり、初段のカソード抵抗は820Ωなので、帰還 抵抗RFBは58.5KΩと計算できます。ただし総ゲインがやや大きすぎるので実際にはRFB=47kΩ、負帰還は7dBにしました。低帰還のアンプを目指しましたので、帰還の安定性はあまり気にせずに済みます。低域側は唯一のカップリングコンデンサーをむやみに大きくしないこと。低域 カットオフ周波数は、f=1/(2π・470kΩ・0.047µF)=7.2Hz。高域カットオフ周波数は、
f=1/(2π・47kΩ・22pF)=154kHz。22pfは微分補償ですが、実際は仮の値で方形波応答波形を観測して決めます。
詳細設計(周辺回路)
1)オートバイアス回路
検出端 をプレート電流、操作端をグリッドバイアス電圧にした帰還型の制御系を形成します。検出すべき電流は交流信号が重畳され た直流電流なので、 この検出には大きな時定数を持つフィルター、あるいはDCサーボのように積分調節器が使われる例がほとんどです。交流信号が重畳された波形からフィルターなどを通して検 出すると波形の平均値が得られ、これを直流電流とみなします。しかし、AB級などのアンプ回路では重畳された交流信号はクリップされるので、 正負でシンメトリーにはなりません。よって正しいバイアス電流を検出することが出来ません。今回のアンプのようにA級では問題はありませんが、電源立ち上げ過程では同じことが言えます。やがて時間が経過し、無信号時間が出て落ち着くことにはなるとは思いますが。
この問題解決のための提案がWeb Site “Broski Auto Bias”で見つかりました。基本的には検出した信号波形を正負ともに強制的に同じ電流値でクリップさせ、シンメトリーにしたものです。2~3個/chのオペアンプ回路で 構成されます。
調査を進めると、『染谷電子』さんの製品回路で、原理の異なる、フィルターなどを使わず波形の瞬時値を検出し、制御する方法が見つかりました。回路はいたってシンプルかつオペアンプ用の電源も必要としません。これを拝借することにしてみました。
上図はその原理図です。Q1とQ2はPNP型のデュアル トランジスター、Q3と Q4はNPN型の デュアルトランジスターです。Q1とQ2はゲインの大きな差動型コンパレーターとして動作し、Q3とQ4はカレントミラー回路として動作しま す。電圧信号として検出されたバイアス電流値が設定値より大きくなるとQ1はOFF、Q2はONします。Q2には定電流源の電流 i が流れ、さらにQ4に i2 として流れます。Q3とQ4はカレントミラー回路ですから、Q3にも同じ電流が i2 として流れます。Q1はOFFしていますから、この i2 はコンデンサーCから電流を引き込みます。結果、Cの電圧=バイアス電圧は下がり、バイアス電流は小さくなります。逆にバイアス電流が小さくなった場合にはQ1は ONし、その他は全てOFFします。定電流電源の i は i1として、コンデンサーCに流れ込みCの電圧を上げます。
この回路は極めてシンプル、かつ波形の対称性の必要もないのでAB級アンプでも使えます。最大の問題点はデュアルトランジスターは絶滅危惧種で入手困難であり、ヤフオクなどでは1個で1,000円に近い金額で取引されています。でも、救世主が現れました。秋月電子さんと東芝です。何と1個20円で買えるのです。ただ、70歳を超えるものにとってはつらい表面実装型のデバイスなのがちょっと残念。
実際の回路は回路図で確認ください。+Bは直接300Bの電源から取り、定電流デバイスは抵抗のみです。また+Bから設定用電源も作ります。- Cには負の定電圧電源を入れました。これはデュアルトランジスターの耐圧が120Vなのでこれを制限するためのものです。
左のPhotoで上部は負の定電圧電源、下部の中ほどは設定電源回路と設定VR、その両サイドには制御回路になっています。設定電源はシャントレギュレーターで安定化しました。表面実装型のデュアルトランジスターは秋月電子で購入したフィルム型のDIP化変換基板(写真で白く見 えている部分)に半田付けした上でユニバーサル基板に搭載しました。
2)ロードスイッチ
いわゆるハイサイドロードスイッチの回路であり、タイマー機能、ソフトスタート機能およびインインターロック回路から構 成されます。正のハイサイ ドの場合、シンプルなのはスイッチングデバイスにP-chMOSFETを使うことですが、高耐圧のP-chMOSFETは数が少なく、入手 がとても困難です。よってN-chMOSFETで構成しました。これをドライブするためにはソース電圧より10~20V高いゲート電圧が必要になります。ソース 側は0Vから500V程度まで変化しますので、ソース電位にフローティングする制御電源にします。このためには絶縁型のDC-DCコンバーターで 耐圧が 500V以上のものが必要です。
インターロック回路用のインターフェースは全てフォトカプラーで絶縁しました。
スイッチングデバイスのMOSFETはON抵抗はわずか1.6Ωなので200mA流したとしても、その損失は0.32Wです。ところが、ソフトスタートの時間帯には大きな損失が発生します。シミュレーションでは1回の動作で約10deg.の温度上昇になります。5~6回続けてON=OFF を繰り返すと破損するかもしれないということです。こういうケースでは熱容量の大きなヒートシンクが必要になりますが、市販されているヒートシンクは逆に熱容量を小さく、表面積を大きくする傾向にあります。アルミブロックなどを加工して重たいものを作ればいいのでしょうが、市販のものを気 休めに付けておきました。回数制限回路は付いていません。安全動作領域(SOA)を考慮してMOSFETは900V耐圧のものにしました。
3)300Bフィラメント電源
300Bフィラメント定格は5V、1.2~1.25A、抵抗値はおよそ4Ωですが、コールド時は1Ω位です。すなわち、コールドスタート時には4 倍ほどの電流が流れます。少しでも優しく使うために中国製の定電圧・定電流モジュールを使ってみました。 1.5~1.6A程度の定電流源でスタートしやがて5Vの定電圧源となるようセットします。2~3秒位で5Vになりました。 4.5V以上になったら電源確立したと認識し、ロードスイッチのONの条件とします。
上記の中国製モジュールの回路図はネットで拾ってきたものですが、回路が違うようです。多層の表面実装型の基板で回路を探ることはできませんでした。 5.5V以上になったらモジュールの故障と認識し、モジュールを停止させようとしましたが、動作しません。5.5V以上を検出する回路はセルフ ホールド(電源リセット)にしてはあります。結局使用できないままの現状です。
4)電源部
遊 休品のLUX製パワートランス8A60とチョーク4705を主体にしていますが、不足するカソードフォロワーの負電源やヒーターの部分用としてバ ンド型の小型トランスを購入しました。昔風で言えば並4用のトランスです。シャーシー上に置くと美しくなく、シャーシー内部に置くには大きすぎる ので、ソフトンから出力トランスを購入する時にトランスケースをわけてもらいました。ピッタリ収納することができ、ダイオードも入れてしまいまし た。
製作
1)300B に敬意を表し、既製品の加工を依頼してみました。当初ケース大手のT社に見積依頼してみましたが私にとっては、高価でした。また、対 応も決してスムーズでなく、しまいには見積がミスってました、さらに高くなります、なんてことを言ってきたので、これを諦めました。購入したのは静岡県にあるオーディオ ショップで、対応が迅速で話の通りがよく、何といっても加工費を安くすることができたのが一番です。およそT社の80%(未加工シャーシー含んで)程度でした。
2)300Bフィラメント回路、ロードスイッチ部はユニバーサル基板で回路を作り、この基板はアルミサブシャーシを介してシャーシー内部に配置しました。右写真の奥はフィラメント2回路分、右手前はロードスイッチ回路とヒューズ5個、左手前は半固定ボリューム3個分の サブシャシーです。
3)シャーシー内部の配線は昔ながらのLラグを使用しています。コードや抵抗などを半田付する時になるべくからげないようにして抵抗値 変更などを容易にしておきました。また、変更の可能性がある場合は抵抗値を大きくしておくと便利です。調整のためににパラに接続すればいいのですから。 直列は面倒です。
調整と測定
1)最初に300Bフィラメント回路を調整します。ロードスイッチへのインターロック解除の設定は4.5V、使用していませんが、過電圧設定は 5.5Vに設定します。実測したフィラメントの電流は、5Vを印加した時、1.47Aと1.54Aでした。当初の電流は1.25Aでしたが、段々 増えてきました。エージング中ということなのでしょうか。
(電流値+0.25)*1.1=1.9A(大きい方に合わせて)に改めて電流設定をしました。0.25Aはフィラメントとパラに接続された抵抗に流れる電流です。常温からスタートすると約3秒で電圧が4.5V以上になります。
2)300Bのバイアス電流は70mA、バイアス用定電圧電源の設定は⁻105V、初段のB4電圧は270Vに設定しました。
3)周波数特性はL.Rchでほぼ揃っています。左がLch、右がRch。測定はFRA4PicoScopeを使いました。総ゲインは32dBで 高めに仕上がりました。現在は7dBの負帰還ですが、もう少し帰還を増やしてみるとどう印象が変わるのか、チェックしてみたい気がしてます。で も、300Bシングルアンプで10dBもの負帰還ってどうなんでしょうね。下図は1W@1kHzでの特性です。
4) 左図は 歪率特性です。両chでやや特性に違いがあります。真空管を入れ替えてみると、この特性も動きますので、明らかにに個体差であるといえます。300BはEH社製で、いずれ も箱書きには58mA、5.2mA/Vと記入されています。テスト条件Vp=300V、Eg=-61Vと記載されてました。この程度の揃い方なの でしょうか。
測定は『WaveGene』と『WaveSpectra』を使っていますが、この設定は別項『WaveSpectraを使用した歪率測定』で記載した条件です。 メーカー製のものと比べて、平均的ではないでしょうか。
5)方形波応答(10kHz)にはややリンギングが見られますが、これで試聴を開始します。あまり気にするな、や、当然何とかしろなど諸説があります。改善するためには周波数特性を犠牲にしなければなりません。
当初、帰還回路の微分コンデンサーは22pFでしたが、リンギング対策のため47pFに変えました。
左がLch、右がRchで測定はPicoScopeを 使いました。
聴いてみて
評判どおり、EH社の300Bは硬質な音感がしました。予想外でしたが低音域が割と豊でした。これはKT88PPのアンプと比較した印象です。 まだ真空管自体が新しく、聴き込んでいくと音質が変わって来そうな気がします。金銭的な余裕が出来たら、変えてみたいところです。また、帰還量(無帰還 を含めて)を変えてみたいとも思っていますが、しばらくはこのまま、各種の音源で、いつも通りブラインドで友人に聴いてもらい評価してもらおうと 思います。
<6/20>4~5人の仲間と試聴会を開きました。KT88PPとの差は分からなく、お世辞も含めて、概ねよい評価は得られたものの、一人からはKT88PPのほうが自然に感じる、という感想もありました。私としては、音質の差はよくわかるけど、あまりよい印象ではありませんでした。さ・し・す・せ・そ が滲んでいるような感じがします。これが、自然ではない感想を持たれたかなとも思います。
リンギング対策を見直すことにします。
リンギング対策(追記)
帰還回路の微分コンデンサーを増やしても、10kHz矩形波応答では、矩形波が鈍るだけで、鈍った波形にリンギングが重畳されたようになります。負帰還7dBの低帰還なので、その安定性についてはあまり考えていませんでしたが、これを機会に考えてみることにしました。
左はラグリード補償について私なりの理解を整理したものです。ラグリード補償は高帰還の安定性を確保する方法論です。第1ポールが存在する場所にCとRを直列にしたフィルターを挿入し、スタガー比を拡げます。理論的な詳細 は"Ayumi's Lab"などで語られています。
製作したアンプは低帰還なので必然性はありませんが、第2ポールの周波数を高め、位相回転を少なくすることがリンギング対策として有効と思いト ライします。
実測の周波数特性からポールの周波数を読み取ります。第1ポールは約20kHz、残念ながら特性私のFRAツールは100kHzまでしか測れませんので、第2ポールは100kHzとしました。シミュレーションで各ステージの周波数特性を見比べると、初段で第1ポールが形成されてるようです。よって、左図R1は概ね初段の内部抵抗で構成されていると考えられます。
内部抵抗はロードラインの等グリッド線の傾きの逆数ですから、前述ロードラインから読み取るとR1=58.8kΩでした。ポールの周波数やR1の値は想像の域ですから、カットアンドトライにはなります。目安の設定です。
第1ポール;20kHz、第2ポール;100kHz、R1;58.8kΩ、帰還量;20dBとして、左記の式で計算すると、
補償抵抗Rc=13kΩ、補償コンデンサーCc=122pfと計算されました。
下図はシミュレーションで効果を確認したものです。
赤は補償無し、青は13kΩ+122pFのラグリード補償、緑は122pfのみの帯域補償です。当然、理論通りの結果ですが、位相についてラグリードの場合は200kHzで約20°も改善されることが分かります。
実際の改造は 13kΩ+100pfにしました。左記は補償前後の実測の周波数特性です。横軸目盛がシミュレーションと違うので分かりにくいですが、 ほぼシミュレーション通りの特性が得られました。
補償の目的がリンギング対策なので、10kHz矩形波応答を下記に示します。
期待どおり、ほぼリンギングは収まり、さ・し・す・せ・そ の滲みも感じなくなりました。
さらに、仲間たちの評価を確認することにします。